脳梗塞は脳卒中の中でも、かかったことのある人の割合が最も大きい病気です。
再発率も高く、食事や運動不足などの影響もあるため、生活習慣の改善が脳梗塞予防のカギといえるでしょう。
しかし、「どのようなことに気を付ければいいの?」「脳梗塞を効果的に予防するにはどうすればいい?」などの疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
本記事では、脳梗塞の予防法と治療法について詳しく解説します。 脳梗塞の再発率についてもお伝えしますので、参考にしてください。
脳梗塞予防の重要性
脳梗塞は再発するリスクの高い病気であるため、予防が欠かせません。
ここでは再発率や危険因子について解説します。
脳梗塞の再発率
脳卒中を発症した410人の日本人を10年間に渡って追跡調査する研究が行われました。
その研究結果からは、発症以降10年間の再発率は、次のとおりになることが分かりました。
- くも膜下出血(70.0%)
- 脳出血(55.6%)
- 脳梗塞(49.7%)(注1)
脳梗塞は脳卒中の中では最も再発率が低かったのですが、半数近くが10年以内に再発するのです。
次に、脳梗塞の危険因子について見ていきましょう。
脳梗塞の危険因子
脳梗塞の危険因子については、生活習慣と季節の影響によるリスクが考えられます。
それぞれ、詳しく解説します。
脳梗塞の生活習慣における危険因子
脳梗塞の生活習慣における危険因子は、次のとおりです。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(メタボリックシンドローム)
- 肥満
- 喫煙
- 多量飲酒
- 運動不足
危険因子は血管を傷つけるため、脳血栓ができたり、血管が硬くなったりする確率が高くなります。
血管が硬くなることを動脈硬化といい、脳梗塞をはじめとした脳血管疾患の原因です。
危険因子には食習慣や運動不足、飲酒などの生活習慣が影響しているため、日常的に健康的な生活を心がけ危険因子をコントロールすることが大切でしょう。
さらに定期検査を受けて、身体の状態のチェックを受けることが、再発予防につながります。
脳梗塞の季節についての危険因子
脳梗塞は、朝や夏に発症することが多いといわれています。
朝方や夏場は、血液中の水分不足で血液がドロドロになり、脳血栓ができやすいのです。
まずは、こまめに水分補給をして、脳血栓の予防に努めることが大切です。
さらに、次のような症状が見られる場合は、すぐに病院に相談しましょう。
- 半身の手足が動かしにくい
- しびれる
- ろれつが回らずしゃべりにく
- めまいがする
症状の影響で本人が救急車を呼べない場合は、周囲に助けを求めることも重要です。
脳梗塞の予防法とは
脳梗塞の予防法とは、脳梗塞の危険因子を抑えるような生活習慣を心がけることです。
たとえば、バランスの良い食事や適度な運動は脳梗塞の予防に役立つでしょう。
脳梗塞を治療するための薬の服用や手術、基礎疾患の治療も予防に含まれます。
脳血栓の代表的な治療法には、「血栓溶解療法」や「血栓回収療法」があります。
「血栓溶解療法」とは、血栓を溶かす薬剤を服薬して、詰まったところを溶かして通りをよくする治療法です。
「血栓回収療法」は、血管にカテーテルを挿入して、脳血栓を物理的に回収する手術です。
脳梗塞の基礎疾患は、糖尿病や心臓病、高脂血症、高血圧などがり、これらの病気の治療が脳梗塞の予防につながります。
日本脳卒中協会の「脳卒中予防十か条」
公益社団法人 日本脳卒中協会とは、脳卒中に関する正しい知識の啓発活動を行う団体で、医師や教授などの有識者が役員を務めています。
当団体は、平成15年2月21日に「脳卒中予防十か条」を作成しました。
その中では、脳卒中の危険因子に対する注意喚起と、生活習慣の改善の推進、万が一の時の緊急対応の必要性が訴えられています。
「脳卒中予防十か条」は次のとおりです。
- 手始めに 高血圧から 治しましょう
- 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
- 不整脈 見つかり次第 すぐ受診
- 予防には たばこを止める 意志を持て
- アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
- 高すぎる コレステロールも 見逃すな
- お食事の 塩分・脂肪 控えめに
- 体力に 合った運動 続けよう
- 万病の 引き金になる 太りすぎ
- 脳卒中 起きたらすぐに 病院へ
標語のように覚えやすい表現がなされているため、脳卒中の予防を日ごろから意識するために役立つでしょう。
食事による脳梗塞の予防
食事で脳梗塞を予防する場合は、食べ物と摂り方に気を付ける必要があります。
その一方で、脳梗塞のリスクを高める食べ物を避けるようにしましょう。
ここでは、脳梗塞を予防する食べ物や、食事の摂り方、リスクを高める食べ物についてお伝えします。
脳梗塞を予防する食べ物
脳梗塞を予防する食べ物は、次のとおりです。
- 青魚
- 野菜
- 海藻類
- 果物
- オリーブオイル
- 大豆
各食材に含まれる栄養素や予防できる理由について説明します。
青魚
青魚に含まれるDHAやEPAは血栓の発生を抑えて、脳梗塞を予防する働きがあります。
またDHAやEPAは、LDLコレステロールや中性脂肪を下げる働きもあります。
LDLコレステロールや中性脂肪が増え過ぎると動脈硬化を起こす原因になるため、青魚を摂って予防に努めたいところです。
マグロやサンマ、イワシ、サバなどの青魚が脳梗塞の予防に効果的といわれています。
野菜
緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンやビタミンCには、動脈硬化の原因である活性酸素を除去する働きがあります。
活性酸素を除去する働きは、抗酸化作用といわれており、老化を防止する作用もあるのです。
また野菜に含まれるカリウムは、血管を痛めるリスクである高血圧を下げる働きもあります。
海藻類
海藻には水溶性食物繊維やカリウムが含まれているため、脳梗塞の予防に役立ちます。
水溶性食物繊維は、腸内でコレステロールや中性脂肪を吸着して便と一緒に体外へ排出する働きがあるのです。
海藻を食べた人の方が、食べない人に比べて脳卒中にかかりにくいことも報告されています。
果物
ブルーベリーやイチゴに含まれるポリフェノールやリンゴ、ナシ、ミカンに含まれるフラボノイドには抗酸化作用があります。
抗酸化作用で活性酸素が除去されると、脳梗塞の原因である動脈硬化を予防できます。
実際にポリフェノールとフラボノイドの両方で、脳卒中への有効性が示されているのです。
フラボノイドについては、とくに女性の脳卒中リスクを低下させる働きがあるといわれています。
しかし果物を食べると、血糖値が上昇するため、糖尿病の場合は控える必要があり、健常者の場合でも食べ過ぎは禁物です。
オリーブオイル
オリーブオイルにはオレイン酸が含まれており、動脈硬化を防ぐ働きがあります。
しかしオリーブオイルも摂り過ぎると、動脈硬化を進行させた事例があるため、毎日摂取するなどの摂り過ぎには注意しましょう。
大豆
大豆にはマグネシウムとカリウム、イソフラボンなどの脳梗塞の予防に役立つ成分が含まれています。
マグネシウムには血管の収縮を防ぎ、血液凝固を防ぐ作用があり、イソフラボンはコレステロールや血圧、インスリン抵抗性を改善する働きがあります。
インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるインスリンが効きづらくなることで、血糖値の上昇を招き、脳梗塞の基礎疾患である糖尿病のリスクを高めます。
糖尿病と脳梗塞を予防するためにも、大豆が含まれる豆腐や納豆を、日ごろから食べるようにしてみてはいかがでしょうか。
脳梗塞を予防する食事の摂り方
脳梗塞を予防する食事の摂り方は、次のとおりです。
- ほどほどの量をバランスよく食べる
- 朝食を摂る
- 水分補給をこまめに行う
各項目について詳しく解説します。
ほどほどの量をバランスよく食べる
食べ過ぎは肥満の原因になるため、腹8分を目安に食べたほうがよいでしょう。また、たんぱく質と脂質、炭水化物の三大栄養素をバランスよく食べる点が重要です。
肥満はBMIが基準になるため、体重をコントロールして脳梗塞を予防するために、計算してみるのもおすすめです。
BMIの計算式は、次のとおりに計算します。
BMI18.5以上25未満が普通体重で、25以上は肥満だといわれています。
30以上は、減量治療が必要とされている値です。
朝食を摂る
朝食を摂らずに1日の食事回数が少ないと、肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成が増加するといわれています。(注2)
中性脂肪やコレステロールの増加は動脈硬化のリスクを高め、脳梗塞の基礎疾患である肥満や脂質異常症の原因となります。
朝食を摂らない人は若年になるほど増加傾向です。若いころから将来的な脳梗塞予防のために、朝食を摂るようにした方がよいでしょう
水分補給をこまめに行う
水分不足になると血液中の水分量が減って、血液が固まりやすくなります。
とくに汗をかきやすく水分が不足しやすい夏場は、水分補給を欠かさないことが重要。
夜間の入浴後も水分を補給して、就寝中の水分不足を補うようにしましょう。
脳梗塞のリスクを高める食べ物や飲み物
脳梗塞のリスクを高める食べ物や飲み物は、次のとおりです。
- 塩分
- 動物性脂肪
- アルコール
以上の飲食物について、脳梗塞の原因となる物質や注意点をお伝えします。
塩分
塩分はみそやしょうゆ、ソースなどの調味料に含まれます。また和食は塩分が多いため、だしなどを上手に使い、減塩する工夫が大切でしょう。
1日の塩分摂取量は6mg未満に抑えることが推奨されています。
動物性脂肪
動物性脂肪の過剰摂取は動脈硬化を進行させて脳梗塞のリスクを高めます。
動物性脂肪に含まれるコレステロールが原因です。
一方で、魚の脂肪はコレステロールを抑える働きがあります。
肉だけではなく、魚や野菜などをバランス良く摂るようにしましょう。
アルコール
アルコールは日本酒1合程度の適量であれば、脳梗塞を予防するとの報告があります。
しかし、飲み過ぎるとアルコールの利尿作用により身体の水分不足に陥るため注意が必要です。
水分が不足すると血液がドロドロして、脳梗塞のリスクを高めます。
アルコールの飲み過ぎは、脳梗塞以外にも肝臓や腎臓にも悪影響を及ぼすため、飲酒量のコントロールは大切です。
脳梗塞の代表的な4つの障害
ここでは、脳梗塞の代表的な以下の4つの障害について説明します。
- 運動障害
- 言語障害
- 感覚障害
- 視覚障害
各障害について詳しく解説します。なお、脳梗塞には他にもさまざまな後遺症があります。
脳梗塞の後遺症について、さらに詳しく知りたい場合は、次の記事を参考にしてください。
関連記事:【医師監修】脳卒中の後遺症とは|言語障害と痙攣、めまいなどの症状はある?確率は?
運動障害
運動障害になると、脳梗塞で障害を負った脳とは反対側が動かしづらくなります。
歩行能力が低下したり、日常生活でできないことが増えたりして、生活に支障をきたします。
指先の動きが悪くなると巧緻障害を患い、喉の筋肉を動かす機能が低下すると嚥下障害により、食べ物を飲み込みづらくなることも。
運動障害の原因となる麻痺には、筋肉がつっぱって動かせなくなる痙性麻痺と、筋肉が脱力して動かせなくなる弛緩性麻痺があります。
言語障害
言語障害になると、言葉を理解する能力や発する能力が低下します。
言葉を理解する能力の低下
言葉を理解する能力が低下した場合は、意味のある言葉を話せなくなるため、会話が成立しづらくなります。
言葉の意味が分からなくなるため、文字も理解できない状態です。
言葉を発する能力の低下
言葉を発する能力が低下した場合は、言葉を発するための筋肉が衰えて、話していることが伝わりづらくなる構音障害になります。
一般的には、ろれつが回らない状態ともいわれます。
感覚障害
感覚障害になると、皮膚に触れられた際の感覚がわかりづらくなったり、しびれを感じたりします。
左右のどちらかが感覚麻痺になることが多く、冷たいや温かいなどの温度についての感覚が損なわれる場合もあるのです。
一方で痛みの感覚が敏感になって、激しい痛みを感じることもあります。
視野障害
視野障害は次のタイプに分かれます。
- 右目と左目の両方で、片側が見えなくなる半盲
- 眼球運動が正常に行われなくなり、物が二重に見える複視
- 視野の一部が見えなくなる視野欠損
視野障害は回復することもありますが、長期間に渡って残ることもあります。
脳梗塞の治療法
脳梗塞の治療には薬物療法や手術療法があります。
また基礎疾患が脳梗塞の原因である場合は、不整脈や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの基礎疾患に対する治療やコロナウイルス感染への対策も重要です。
後遺症を重症化させないためにも、脳梗塞の原因を早めに発見して早期治療につなげることが大切です。ここでは、脳梗塞の治療法について詳しく説明します。
薬物療法
脳梗塞の治療は、まずは薬物療法が中心です。
症状が出た直後から4.5時間以内であれば、血液溶解薬が投与されます。
血液溶解役は、脳血栓を溶かして血液が流れるようにする薬です。脳梗塞の発症後のなるべく早い時期に投与する必要があります。
他にも脳を保護する薬や脳のむくみを抑制する薬が投与されることもあります。
手術療法
脳梗塞における手術療法の代表例は、血管内ステント留置術やバイパス手術です。
血管内ステント留置術とは、血管の中にカテーテルを挿入して狭くなった血管を広げます。
バイパス手術は、脳梗塞で血流が阻害されている部位を迂回するように血管をつなぐ手術です。
身体の別の部位から持ってきた血管をつなぎ合わせて、不足した脳血流を補います。
基礎疾患への治療やコロナ対策
日ごろから生活習慣の改善に努めたり、基礎疾患をコントロールする薬を服用したりして治療することも大切です。
不整脈や高血圧、脂質異常症などの基礎疾患は脳梗塞の原因です。
また、脱水になると脳梗塞を発症する確率が高まるため、水分補給は十分に行うようにしましょう。
また脳梗塞の経験者が新型コロナウイルスに感染すると、重症化のリスクがあるといわれています。
新型コロナウイルス後遺症の治療法については、次の記事を参考にしてください。
関連記事:新型コロナウイルス後遺症はどこの病院に行けばよい?東京で後遺症で困っている方・不安を感じている方へ
ラクナ梗塞の治療の重要性について
脳梗塞を予防するためには、ラクナ梗塞の早期発見と早期治療も重要です。
ここでは、ラクナ梗塞について説明します。
ラクナ梗塞とは
ラクナ梗塞とは、脳の深部にある細い血管がつまって発症する脳梗塞です。小さな脳梗塞であるため、症状が現れても多くの場合は軽症です。
ラクナ梗塞があっても気づかれないこともあります。
症状が現れずに気づかれないラクナ梗塞は、「無症候性脳梗塞」とも呼ばれます。
ラクナ梗塞の発見と早期治療が大切
ラクナ梗塞は無症候性であっても、将来的に本格的な脳梗塞になるリスクがあります。
さらにラクナ梗塞は、血管性認知症と呼ばる認知機能障害の原因になるともいわれています。
将来的な認知症を予防するためにも、ラクナ梗塞を発見して早期に治療を受けることも大切です。
脳ドックなどを利用して検査を受け、ラクナ梗塞の早期発見と治療に努めると、脳梗塞や認知症の予防につながります。
脳梗塞の予防は生活習慣の改善が重要
脳梗塞を発症した人の内、半数近くが10年以内に再発すると報告されています。
脳梗塞は生活習慣に影響を受ける病気です。そのため、脳梗塞を予防するためには生活習慣の改善に努めることが重要でしょう。
また脳血栓を作らないようにしたり、脳梗塞の原因となる基礎疾患による症状をコントロールするため、医師と相談しながら治療を進めることも重要です。
一般的には、服薬や手術による治療が行われますが、後遺症が残った場合は当院が行うサイトカイン療法もおすすめです。
サイトカイン療法は、脳梗塞でダメージを受けた脳細胞を再生する治療法です。
最新の再生医療技術を応用した治療法ですので、脳梗塞による後遺症でお悩みの方は、ぜひスマートクリニック東京にご相談ください。
(参考)
注1:Ten year recurrence after first ever stroke in a Japanese community: the Hisayama study
記事監修
-
東京慈恵会医科大学卒。
慶應義塾大学での勤務を経て、株式会社ZAIKEN設立。
臨床、訪問診療、企業活動など様々な分野に従事。
2020年よりスマートクリニック東京院長。
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