自分自身の幹細胞を培養・増殖し体内へ戻すことで、組織の再生・各種疾患の治療を行う治療を「幹細胞治療」といい、幹細胞を培養した培養液に幹細胞自体を取り除いた上澄み液を用いた治療を、「幹細胞培養上清液治療」と言います。
幹細胞自体は分裂・分化する力をもっており再生力があると言われていますが、実は、幹細胞を培養した際の上澄み液にも、幹細胞から分泌される成長因子が豊富に含まれているため、幹細胞同様の再生力を持つことが現在期待されています。
本記事では、幹細胞治療と幹細胞培養上清液治療について詳しくお伝えます。
効果のメカニズム“効果があるのは幹細胞自体ではなく幹細胞が発する再生因子”
幹細胞治療(Cell-therapy)とは幹細胞をご自身の細胞から取り出し、培養し、増えた幹細胞を戻すことで、損傷をうけた臓器を治す治療法です。
幹細胞移植治療については、多くの基礎実験から幹細胞投与によって一定の治療効果があることは示されてきました。
ただ、投与した幹細胞がどこにいるのか調査したところ、脳梗塞のような損傷した細胞には投与した幹細胞が存在しないことがわかりました。
これは、静脈から投与した場合に、95%近くが肺にトラップされ、実際に損傷した場所に到達した細胞は0.0005%しか届いていないという研究結果によっても示されています(注1.2)
果たして、幹細胞治療は幹細胞が肺でほとんどトラップされているのに、治療効果があるのでしょうか。もちろん数十個の細胞たちが作用している可能性もあります。
“効果があるけれど、ほとんど細胞が残っていない?”
そのような疑問に対する答えとしては、“肺でトラップされた細胞が作用したのでは”というのが有力な説です。
実際のところ、肺でトラップされた細胞はそのまま死なず、生き抜くためにいろいろな再生因子を出します。酸素が足りないから血管を作ろうという再生因子、細胞が全体的やられているから、細胞修復しようとする再生因子など、数百種類の再生因子を細胞が出すのです。
しかしながら、そこで細胞から発される再生因子は、ヒト細胞からの再生因子であるため、幹細胞に作用するのではなく、投与された体の細胞や免疫細胞に作用します(注3)
そうやって投与され活性化した免疫細胞や因子は、体の障害をうけた場所まで作用し、身体を治療してくれます。幹細胞は自分たちを治す再生因子を出し、その出した再生因子が身体を修復してくれるのです。
多くの幹細胞たちが私たちの体に及ぼしていることは、このようなメカニズムだと考えられています。
幹細胞治療のデメリットやリスクは?
幹細胞治療(Cell-therapy)はこのように効果もありますが、一方で細胞を投与することによるデメリットもあります。細胞そのものが肺に詰まることで、肺塞栓症という命に関わる事態になる可能性もゼロではありません。
治療費の側面では、幹細胞治療は自身の細胞を採取・培養などをする必要があり、オーダーメイドの治療になるため、コストも高くなってしまいます。
効果があるかもしれないけれど、いろいろなリスクがある・・・
これを解決するのが幹細胞培養上清液(Cell-free-therapy)であると、私たちは考えています。
幹細胞培養上清液治療とは
さて、では一方で、幹細胞培養上清液治療はどうでしょうか。
幹細胞培養上清液は、前述した幹細胞が肺の中で再生因子を発するメカニズムを、体内ではなく体の外で行います。
幹細胞治療では、幹細胞を身体の外で培養し、増殖させた後、そのまま身体に戻しますが、幹細胞培養上清液では、幹細胞を培養液の入ったフラスコの中で幹細胞の培養を繰り返します。
培養を繰り返す中で、幹細胞は人の体内に戻した時と同じように、生き抜くための多種多様な再生因子を豊富に出すのです。培養の過程で細胞から放出された多くの再生因子を含んだ培養液から幹細胞を除去したものが「幹細胞培養上清液」です。
身近な再生医療としての幹細胞培養上清液
幹細胞をご自身の細胞から取り出し出さなくても、幹細胞培養上清液を投与することで、様々な再生因子が身体の細胞や免疫細胞に作用して、修復を促してくれます。
さらに良いことに、幹細胞はすぐには死なないため、何度も培養を繰り返すことができるため、培養上清液を何度も繰り返し回収することができるのです。
その結果、精製コストはかなり下げることができるようになるのです。
価格が高く気軽に受けることが出来ない幹細胞治療でも、幹細胞培養上清液ならば再生医療はもっと身近になり、多くの人に届くのではないでしょうか?
最終的にはどの医療機関でも再生医療ができる。そんな未来になればよいと思っています。
(参考)
注1:Harting MT, Jimenez F, Xue H, Fischer UM, Baumgartner J, Dash PK, Cox CS. Intravenous mesenchymal stem cell therapy for traumatic brain injury. J Neurosurg. 2009;110:1189–1197. [Europe PMC free article] [Abstract] [Google Scholar]
注2:A. V. Pendharkar, J. Y. Chua, R. H. Andres, N. Wang, X. Gaeta, H.Wang, A. De, R. Choi, S. Chen, B. K. Rutt, S. S. Gambhir, R. Guzman,Stroke 2010, 41, 2064
注3:Matsubara K, Matsushita Y, Sakai K, et al. Secreted ectodomain of sialic acid-binding Ig-like lectin-9 and monocyte chemoattractant protein-1 promote recovery after rat spinal cord injury by altering macrophage polarity. Journal of Neuroscience. 2015;35:2452–2464.
スマートクリニック東京では、乳歯幹細胞培養上清液を使用したサイトカイン治療で、ALS、脳梗塞後遺症、アルツハイマー型認知症、脊髄損傷、AGA、コロナ後遺症、アトピー性皮膚炎などに新たな選択肢をご提案します。
記事監修
-
東京慈恵会医科大学卒。
慶應義塾大学での勤務を経て、株式会社ZAIKEN設立。
臨床、訪問診療、企業活動など様々な分野に従事。
2020年よりスマートクリニック東京院長。
最新の監修記事
- ALS2024.01.23臨床研究に関する情報公開について(オプトアウト)
- ALS2023.12.13ALS(筋萎縮性側索硬化症)上清液投与 case3
- 再生医療2023.11.01上清液治療の安全性について(製造から投与)
- ALS2023.10.26ALS(筋萎縮性側索硬化症)上清液投与 case2