今回はNew England Journal of Medicineより発表された論文をご紹介します。
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早期のアルツハイマー型認知症患者に対するドナネマブ投与
Donanemab in Early Alzheimer’s Disease
N Engl J Med. 2021 May 6;384(18):1691-1704.
【背景】
アルツハイマー型認知症の特徴は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの蓄積である。ドナネマブは、沈着したAβ蛋白の変形体を標的とする抗体であり、初期のアルツハイマー型認知症の治療薬として研究されている。
【方法】
PET検査でタウ蛋白とアミロイドの沈着を認めた早期のアルツハイマー型認知症患者を対象に、ドナネマブの第2相臨床試験を実施した。患者さんを1:1の割合で無作為に割り付け、ドナネマブ(最初の3回は700mg、その後は1400mg)またはプラセボ薬を4週ごとに最大72週間まで静脈内投与した。主要評価項目は、76週時点における統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS、範囲:0~144、スコアが低いほど認知・機能障害が大きいことを示す)のスコアのベースラインからの変化とした。副次評価項目として、CDR-SB、ADAS-Cog13、ADCS-iADL、ミニメンタルステート検査(MMSE)、PETにおけるアミロイドおよびタウ負荷の変化も評価した。
【結果】
合計257人の患者が登録され、131人がドナネマブを、126人がプラセボ薬を投与されるように割り付けられた。ベースラインのiADRSスコアは両群とも106であった。76週目のiADRSスコアのベースラインからの変化は、ドナネマブ投与群で-6.86、プラセボ投与群で-10.06だった(95%信頼区間:0.12-6.27、P = 0.04)。ほとんどの副次的アウトカムでは、実質的な差は認められなかった。76週時点のアミロイドプラークとグローバルタウ蛋白は、プラセボ群に比べドナネマブ投与群で85.06センチロイド、0.01以上それぞれ大きく減少した。アミロイドに関連した脳浮腫や脳出血(ほとんどが無症状)はドナネマブ群で発生した。
【結論】
ドナネマブ投与群はプラセボ薬投与群と比較して、76週時点の認知機能および日常生活動作能力の総合スコアが良好であったが、副次的な結果については賛否両論であった。アルツハイマー型認知症におけるドナネマブの有効性と安全性を検討するためには、より長期かつ大規模な臨床試験が必要である。
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【コメント】
世界の60歳以上の高齢者人口は2050年までに20億人に達すると予想されています。健康に長生きできることが一番ですが、やはり高齢になるにつれて認知症が発症する可能性が高くなりますので、高齢化が進むにつれて認知症で苦しむ患者様が増えていくことは避けられません。米国のFamily Caregiver Allianceによると、介護のために仕事を辞めた介護者の代わりに企業が負担するコストは33億ドルと推定されています。つまり、高齢化が進むにつれて認知症の患者様が増えるだけでなく、それに付随する家族の負担、および社会経済全体への負担へと発展していくのです。ですので、このような慢性疾患の進行を抑える薬の開発は社会全体に幸福をもたらすものとなるでしょう。
今回ご紹介するのは世界最高峰の雑誌であるNEJMに2021年に掲載された論文です。アルツハイマー型認知症を引き起こす要因は脳内のアミロイドβ蓄積による老人斑が原因と言われています。これまでアルツハイマー型認知症発症のメカニズムに作用する薬は多々開発されてきましたが、多くは治験の段階で不成功に終わってしまっていました。しかし近年で状況が一転し、現在はアミロイドβ蛋白の抑制効果が期待されるいくつかの薬剤に関する治験で期待できる結果が報告されております!
今回の治療薬のポイントは、まだ認知機能低下がそこまで進行していない早期のアルツハイマー型認知症患者(画像診断で蛋白の沈着が認められた患者)に対して効果が期待されるということです。すでに認知機能低下が明らかとなった時点では多くの脳神経細胞が脱落していることから、アルツハイマー型認知症を治療するためには無症状だけども脳細胞がまだ生きており、脳細胞が変化し始めたくらいでの早期の時点での治療が大事だと考えられます。その時点でアミロイドβの沈着を阻害するような薬を投与することで脳神経細胞の障害を抑え、結果的に認知機能低下を防ぐ(遅らせる)ことができると考えられます。
とはいっても認知症にはアルツハイマー型認知症以外に脳血管障害型のものもありますので、小さな脳梗塞を起こしたことによる認知症はこの薬では防げないです。
また、今後はドナネマブ投与による有害事象の検討が必要になります。ドナネマブは日本でも2024年に承認されるかもしれない、とされている薬ですので、今後の結果に期待ですね!
記事監修
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東京慈恵会医科大学卒。
慶應義塾大学での勤務を経て、株式会社ZAIKEN設立。
臨床、訪問診療、企業活動など様々な分野に従事。
2020年よりスマートクリニック東京院長。
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